第36章 世界史
令和2年
9月末日。
歴史教師である煉獄杏寿郎はキメツ学園理事長の産屋敷に呼ばれ、理事長室の前に来ていた。
すぅっと息を吸ってドアをノックし、中から「はい」という返事を聞いた後、「煉獄です。失礼します!」と溌剌とした声で言い、丁寧にドアを開け中へ入る。
「よく来てくれたね。杏寿郎。」
窓際にやわらかい笑みを湛えて産屋敷が待っていた。
「理事長。お話があると伺いました。」
背筋をピンと伸ばし、金色の髪を靡かせながら理事長の前に歩みを進める。
「あぁ。今君の隣の席の世界史の先生の事なんだけど。」
「はい、今日でお辞めになるとか。」
「残念だけどそうなんだ。それで次の先生が決まったので君に紹介したい。明日から着任の予定だ。」
「なるほど!それは生徒にとっても私たち教員にとっても有難い。」
「今、もう来てもらっているから、明日からの事を教えてあげて欲しいんだ。部活動も君とおなじ剣道部だ。任せて大丈夫かな?」
「もちろんです!。」
「では、お入り。先生。」
杏寿郎は名前を聞いて耳を疑った。
・・・・今・・・何と?
鼓動が早くなるのを感じながらゆっくりドアの方へ体を向ける。
「はい。失礼します。初めまして、 です。世界史を担当させていただきます。よろしくお願い致します!」
産屋敷に呼ばれた女性は紺色のパンツスーツに身を包み、杏寿郎の前でぴたりと止まる。
流れるように一気に言い、一礼する。
顔を上げた彼女は、ふわふわとした鳶色の髪、翡翠色の瞳。あぁこの女性のことはよく知っている。
「!!!」
杏寿郎はずっと待ち望んでいた姿を見て驚きを隠せない。
「??どこかでお会いしたことがありますか?」
先生は、少し首をかしげて杏寿郎の顔を見る。
「・・・い・・いや。人違いだった。すまない。日本史担当の煉獄杏寿郎だ。こちらこそよろしくお願いします!」
杏寿郎は目から涙が溢れそうになるのを堪えて、大好きな翡翠色の目を見つめながら溌溂とした声で返す。
(・・やっと会えたが、記憶が無いか。)
「先生は9歳からフランスに行ってらしたんだ。先日帰国されたばかりだ。日本は久し振りらしいから、杏寿郎、困ったことが無いように助けてあげて欲しい。」
「はい!承知しました!」