第32章 本当の気持ち
杏寿郎が亡くなってからは毎日仏壇に手を合わせて杏寿郎に1日の報告をしていた。
仏壇に手を合わせること自体にあまり意味はないと思っていたが、杏寿郎がよく瑠火さんの為に仏壇や墓に行っていたので、それを尊重した。
杏寿郎の墓ができてからは、毎朝桜寿郎と一緒に墓に行くのが日課だったが、宇髄の家で暮らすようになってからは、天元に気を使って、月命日だけお参りをすることにした。
その代わり、ルビーの指輪とお揃いの結婚指輪を握っている時だけは杏寿郎の事を考えることにした。
引っ越してきたその日、は指輪を握って考えた。
本当はずっと煉獄家で杏寿郎との思い出だけで生きていきたかったということ。
天元の事は嫌いではないが、やはり杏寿郎を愛しているということ。
煉獄家にずっといても千が結婚する頃になったら、未亡人の兄嫁とその息子は迷惑になるだろうという思いがあるから家を出たこと。杏寿郎にどんどん似てくる千寿郎を見るのも辛くなってきたこと。
でも、あんなに自分を想ってくれている天元の事を大切にしていくと決めたので、ずっと首から下げていた指輪達を握りしめると、ごめんねと呟いて、鏡台の抽斗に仕舞った。
杏寿郎にむけた本当の気持ちは指輪の前で少しだけ出すことにしようと。
3人で暮らし始めてから、天元は本当に優しかった。桜寿郎の事も大切にしてくれたし、のことも大切にしてくれてよく笑わせてくれた。
3人のお嫁さんたちもを歓迎してくれて楽しく食卓を囲んだり、お酒を飲んだりした。
少しずつ、少しずつの心に天元の居場所も増えていった。