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気炎万丈【鬼滅の刃/煉獄杏寿郎】【R18】

第23章 正夢


棺の中で穏やかに微笑む杏寿郎と対面したのは、笑顔で見送った十数時間後だった。

(あぁ、やっぱり)
泣きじゃくる千寿郎を抱きしめる。私は夢で見ていたからか不思議と涙は出ない。

千寿郎から離れて杏寿郎の顔を見に行く。
いつもの眠っている時と同じ顔。頬にそっと掌を当ててみる。冷たい。ぴたぴたと顔のどこを触っても冷たく、そして少し硬い。
血の通わなくなった肌は造り物の人形の様だった。

胸の上で組まれている手に触れてみる。やはりがいつも触れていた手と違い、硬く冷たい。

頭ではもう十分すぎる位に理解できていたが、実感が伴わない。

目の前の杏寿郎は杏寿郎の形をした只の入れ物だった。どうしようか一瞬迷ったが、入れ物にさよならの口づけをした。
いつもは嬉しい口づけだが、何も感じなかった。

ふぅと溜息をついて千寿郎の所へ戻る。私が無表情な事を不思議がっている様なので、悲しそうな表情を作ってみる。

他にも訃報を聞いて駆け付けてくれた弔問客にも同じような悲しそうな表情を作ってみる。涙はどうしてか出ないので不審がられているかもしれないが、どうでもいい。

大体の人は無表情のをみて心中を慮ってくれた。

天元は私の顔を見て、驚き、頬をつねられて、目を見つめられた。天元の綺麗な紫の目・・・。こんな色だったっけ?その綺麗な紫から涙が零れたが、私はどうしていいかわからず、少し困った顔をして見せたら、頭を抱き寄せられて撫でられた。何か私に言ってるんだけど、心に残らない。当たり障りのない返事ができてたかな?

杏寿郎が大切にしていたお腹の子の為にご飯は食べた。

槇寿郎さんが、杏寿郎の棺の前で怒鳴っている。棺の角をドカッと蹴った時だけは、「お父上!」と声が出た。どうせ棺の中にあるのは入れ物だから本当はどうでもいいけど、後で槇寿郎さんが後悔すると思ったから。

夜は妊婦特有の眠気でうとうとできた。夜眠れないのはつらいから助かった。

葬儀が終わる頃にはこのぼんやりした感覚にも慣れてきて、会話もうまくかみ合うようになってきたと思う。

赤ちゃんがお腹を蹴ってくる時だけは少し穏やかな気持ちになれた。

ふと、産まれたら任務に復帰しようと思った。
何もしていないと杏寿郎のことをずっと考えてしまうから。
そう、自分で良く分かってる。向き合いたくないんだ現実と。 
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