第23章 正夢
少しの淡い期待は、思いの外すぐに現実によって壊された。
「明日の夕刻から、任務で汽車に乗ることになった。鬼の気配を追って乗車した隊士がもう何人も行方不明になっている。」
(やはり夢ではなかった)
「先日の柱合会議にいた鬼を連れた隊士も一緒だそうだ。」
(市松模様の羽織の隊士)
「・・・?どうした?少し顔色が悪い。」
(・・もう考えない。笑おう)
「ううん。汽車で遠くに行くなら、寂しいなって思っただけ。」
「すぐいつものように戻って来る。寂しいなんて可愛いことを言ってくれる。」
杏寿郎が手を伸ばし、の手を握る。
「あれ?私があなたの事大好きなの、知らなかったの?」
はその握られた手をぐいっと引き寄せ、杏寿郎に抱き付き顔を覗き込む。
「君は本当に会った頃のまま、変わらず可愛いな。」
「杏寿郎はずいぶん凛々しくなった。」
「ほぅ。では前の俺と今の俺、どっちが好みだ?」
は、虎の子みたいだった昔の杏寿郎と今の獅子の様な杏寿郎を比べてみる。
「どっちも好きなんだけど、今かなぁ?私、時々気が付いたらじっと見惚れている時があるよ。」
「うむ。俺もだ。俺は出会った時からずっとだがな。」
「あ、ずるい。じゃあ私もずっとだよ。」
「ずっと、大好きな、・・杏寿郎。」
言いながら、ぎゅっと抱き付く。
「本当にどうした今日は?」
「いつも言ってもらってばっかりだから。」
「私を幸せにしてくれてありがとう。」
「こちらこそだ。未熟な俺を信じてついて来てくれていつも支えてくれた。さらに俺の子まで産んでくれるというんだ。こんなに幸せなことはない。」
「ふふふ。」
見つめあって、何度も唇を重ねて。また肌を重ねた。
次の日 杏寿郎は任務に向かった。
そして・・・やはり・・。明け方 杏寿郎の鴉が悲しい知らせを運んできた。
杏寿郎は瑠火さんの所へ行ってしまった。
の大好きな杏寿郎はもうどこにもいなくなってしまった。