第1章 出会いと変化
何の前触れもなくスッと立ち上がった兵長は、
私の額に手を当て、
もう片方の手で私の首元に優しく触れ、
脈拍を計る素振りを見せた。
『ちょ、ま、え?』
突然近づいた兵長の顔を直視出来ず、
思わず目を瞑る。
「まだ熱もあるようだし、脈も速いな……」
真剣な表情で呟く兵長だったが
『いやいや、いきなりそんなことされたら
脈も速くなるし熱くなるし……』
と、私は心の中で
動転した気を抑えようと必死だ。
「今日は早く休んだほうがいい。」
そう言って冷静に病状を分析する兵長を見て、
なんだか気が抜けた。
「……リヴァイ兵長、優しいですよね。」
そんなことが思わず口を衝いて出た。
「………」
何も言わない兵長を見て、
拙いことを言ったかもしれないと少し焦る。
「……なぁ、前から思っていたんだが」
「え?」
いきなりの話題替えにまた焦る。
「俺はお前の兵長じゃねぇ。」
兵長の顔は至って真面目だ。
「……?そ、そうですね?」
何が言いたいのか分からず小首を傾げた。
「だからお前が俺のことを
兵長と呼ぶのはおかしくないか?」
そう言った兵長の不機嫌そうな顔を見て
何をいまさら……と、思わず吹き出す。
「……確かにそうですね。
これからはリヴァイさんって
呼んでもいいですか?」
本当にこの人は掴みどころがない。
それなのに掴みたくなる。
不思議な人だ。
「ああ。そうしてくれ。」
やっと席に座ったリヴァイさんは
静かに水を飲んだ。
「それでは、次リヴァイさんが来られた時は
風邪も完璧に治して、
尚且つ、兵長って呼ばないように
気を付けます。」
そう言って微笑んで見せたが
「いや、しばらくここには来られない。」
と、少し表情を曇らせた。
「明日から壁外調査に出る。
一定期間は戻らない予定だ。」
その言葉に、
自分が一気に落ち込むのが分かる。