第9章 ジャンの葛藤
ジャンはそう言うと、また静かになる。
「……マルコって子に、
それだけ期待されてた事実があるのに
自分はまだ目立った成果を残せてないから
それを不甲斐なく思ってんの?」
エマはジャンの頭に手を置いたまま
問いかける。
「……それもある。」
ジャンの声は今にも消えそうだった。
「……何でマルコは死んで、
俺は生きてるんだろうな。
実際、俺よりマルコが生きてたほうが
兵団の役にも立てたんじゃ」
「何でそういうこと言うかな、ジャンは。」
ジャンの言葉を遮るエマが、
初めて聞く厳しい口調なことに、
ジャンは目を見張った。
「弱ってるからって、
そんなこと言わないでよ。」
エマはため息を吐く。
「マルコくんは優しくて、
思いやりがあって、誰よりもいい人
だったのかも知れないけどさ。
それでも私は、今ここにジャンがいてくれて
良かったと思ってる。
ここで生きてくれてることが、
嬉しいと思ってるよ。」
エマの言葉がジャンの心に響く。
「……て言うかさ、きっとみんな
そう思ってるんじゃないの?
マルコくんの死は、みんなにとっても
辛かったと思うし、
否定したい事実だったと思う。」
「でもそれで、
代わりにジャンが死んどけば良かったのに、
なんて誰も思わないよ。
そんなこと考えちゃうの、ジャンだけだから!
ジャンのこと大切に思ってる人に対して
失礼だよ!」
話しているうちに、
思わず声が大きくなってしまったエマは、
「……ごめん。
私がムキになってどうすんだ、って話だよね。」
と、小さく笑った。