第65章 余裕のある大人の夜
「やっぱり思い出すんだよ……」
エマは涙を溢しながらジャンに言う。
「どうしても、リヴァイさんのこと思い出すの。
ふとした瞬間に思い出して、
幸せだったって思って、
でも、もう戻ってこない幸せだって
分かってて……」
ジャンは黙ってエマの髪を撫で続ける。
「いつも幸せだったわけじゃない。
嫌なことだってあったし、
ジャンと居る時みたいに、いつも笑って
過ごせるわけじゃなかった。
でも、それでも、
どうしても忘れられないんだよ……」
エマは抑えきれない涙を手で拭った。
「大丈夫。分かってるよ。」
ジャンはそう言うと、
エマの頬を包み込むように触る。
「そんなこと、分かってるから。
もうそんなに自分責めんなよ。
無理に忘れようとしなくてもいいだろ。」
エマは嗚咽を漏らし、
泣きながらジャンの胸に顔を埋めた。
「あんなに好きだった人にフラれて、
簡単に立ち直れるとは思ってねぇよ。
そんなに自分追い込んでも、
忘れられるわけねぇだろ。」
ジャンは優しい声でエマに言う。
「……ごめんっ、」
「謝るところじゃねぇから。」
やっと出たエマの言葉に、
ジャンは小さく笑うと、
また優しく抱きしめた。