第55章 強引な理由
自分の部屋までの長い廊下や階段を
何も考えることができず、
ただひたすらに早足で歩く。
涙があふれていることにも
気付かないほど、
エマは憔悴し切っていた。
その時、階段の踊り場で
ジャンがエマに向かって駆けてきた。
「エマさん。やっぱ心配だから待って」
そう言いかけた時、
エマはジャンにもたれかかった。
「エマさん?」
ジャンは只ならぬ様子のエマに呼びかける。
「……ごめん。ちょっと胸借りる……」
エマは堰を切ったように、
ジャンの胸で泣き始めた。
ジャンは何も言わず、
ただ、エマの背中を優しく摩った。
夜明けが近付いてきた頃、
「エマさん。
そろそろ誰か来るかもしれないから、
場所変えよう。」
ジャンはエマの背中を摩りながら言う。
「俺、明日は非番だし、
いつまででも付き合うから。」
ジャンはそう言うと、
エマの手を引き、歩き出した。
『……とは言ったものの、
朝になると訓練部屋は誰かが使うだろうし、
だからと言って男子寮に
連れてく訳にもいかねぇし……』
ジャンがそんなことを考えていると、
エマは突然立ち止まる。
「エマさん?」
「ジャン。私の部屋おいでよ。」
ジャンは一瞬動揺で言葉を失うが、
「……分かった。そうしよう。」
それだけ言った後、廊下を引き返し、
エマの部屋へ向かった。