第45章 波乱に巻き込まれて
エマは着替えを終えると、
既に華やいでいる会場に足を踏み入れる。
こんなに人が大勢集まる場所に来るのは
初めてだった。
会場内は丸い円卓が所々に置かれ、
その周りには壮麗な衣装に身を包み、
申し分なく化粧を施した貴族女性が
際立って見えた。
「……場違いもいいとこだな、私。」
そう呟き、ため息を吐く。
そして、
「天井高いなぁ。」
と、思わず上を見上げ、
燦爛たるシャンデリアに目を向けた、その時。
会場のドアがゆっくり開き、
騒がしかった会場が一瞬静まり返る。
その直後、
「エルヴィン団長だわ!」
と言う、女性の甲高い声が、
あちこちから聞こえ始めた。
エマは思わず壁に向き直ると、
『……ちょっと待った。
エルヴィンさんがこんなに貴族に
人気とか、聞いてないんですけど。』
心の中でそう呟き、鼓動を早くさせる。
『無理だ。そんな人と一緒にいるのが、
こんなちんけな女だったら笑い者もいいとこ…』
「エマ。待たせたな。」
エマの心の声を遮るように、
エルヴィンが声をかける。
一呼吸おいて、恐る恐る振り向くと、
そこには黒いタキシードに身を包んだ
エルヴィンが立っていた。
繊細な格子柄で少し光沢のある素材感の
ブラックタキシードは、
しっかりしたエルヴィンの体格に
とても合っている。
そのスマートな着こなしに、
エマは一瞬見とれてしまう。
「早速怖い思いでもしたのか?」
エルヴィンはエマの顔を覗き込む。
「………大丈夫です。」
エマはエルヴィンを直視できず、そう答えた。
「その割には、
かなり怯えた表情だが。」
「………と言うか、エルヴィンさん、
黄色い声に包まれて登場とか
かなり予想だにしなかったことで、
私も混乱してるんですけど……」
「私は嫌われ者だと思っていたのか?」
「いや、そういう訳じゃないんです!
でも、かなり驚いたというか……」
「そんな顔をするな。
私は君と過ごせることを楽しみに
今日ここに来たんだから。」
エルヴィンはエマを安心させるように
笑いかけた。