第36章 リンゴ事件
「なんか、今、生きてる気がする。」
「………?
それ、今の出来事と関係ある?」
「どうだろうな。」
「……と言うか、この状況は?」
エマはジャンの胸に抱かれた状態で
問いかける。
「俺がエマさんの口からリンゴもらって、
ついでに抱きしめてる。」
「それは分かるんだけど、」
「なぁ、俺の心臓、動いてる?」
突拍子もない問いかけを受け、
エマはジャンの鼓動に耳を澄ませる。
「うん。結構よく動いてるみたいだけど。」
「そこは冷静なんだな……」
エマはそのまま黙って
ジャンの鼓動の音に聞き入る。
心なしか早いようにも思えるが、
その規則正しく刻まれる鼓動の音が
心地よくもあった。
しばらくして、
エマは思い立ったように
「ねぇ、やっぱりこの状況、おかしいよね?」
と、顔を持ち上げようとする。
ジャンはエマを離すと、
「生きて帰ったら、
やりたかったことをやってみただけだ。」
そう言い、笑って見せた。
「やりたかったことって、これ?」
エマは楊枝に刺したリンゴを
ジャンに見せる。
「いや、それはついやってしまったことだな。」
ジャンは少し目を伏せた。
「……エマさん。
俺、無事帰ってきたら
言おうと思ってたことがある。」
「なに?」
エマは楊枝に刺したリンゴを皿に戻す。
「俺、」
「おい。エマはいるのか?」
突然のリヴァイの声の侵入に、
ジャンは肩を落とした。