第36章 リンゴ事件
「ねぇ、体調大丈夫?
また人の心配ばっかりして
自分のこと後回しにしてたんでしょ。」
エマはため息を吐きながら
ジャンを見ると、
ポケットからリンゴを取り出す。
「お見舞い持ってきちゃった。」
「リンゴ?それって
結構貴重なんじゃねぇのかよ。」
ジャンは眉間に皺を寄せた。
「そうなんだけどね。
調査兵団が壁外調査に行ってる間、
私、憲兵団で手伝いしてて。
そこでちょっと拝借してきた。」
「……盗んだってこと?」
「人聞きの悪い。
報酬として、もらっただけだよ。」
エマはそう言って笑うと、
口の前で人差し指を立てる。
「内緒にしててね、怒られたら嫌だから。」
ジャンはそう言うエマを見て、
「エマさん、やっぱ変な人だな。」
と、優しい表情で笑った。
「そんないい笑顔で言っても、
それ、褒め言葉じゃないからね。」
エマは少し怪訝そうな顔でジャンを見た。
エマはもう片方のポケットから
果物ナイフを取り出し、
リンゴの皮をむき始める。
「それ、兵長にあげなくていいのか?」
「なんでリヴァイさんに?」
「おい、恋人だろ。」
ジャンは思わず突っ込みを入れる。
「ああ、そっか。でも、いいの。
別にリヴァイさんに、って思って
盗ってきたわけじゃないし。
これはジャンと食べることに決めたから。」
「何で俺なんだよ。」
「……さあ?」
エマはジャンの質問の意味が
よく分からず、曖昧に返事をする。