第30章 触れない理由
エルヴィンはエマに向き直ると手を差し出す。
「それでも今、
君が私の手を必要としているのなら、
私は快く貸そうと思う。
エマ。私の手を握ってくれるか?」
エマは少し考えた後、
そっとエルヴィンの手を握った。
「今はまだ全ての結論を急ぐ必要はない。
ゆっくり考えてくれ。」
エルヴィンはそう言うと、
エマの手を握り返す。
「……すみません、私、今、
完全にエルヴィンさんの優しさに甘えてます。」
「それでいい。
元々甘えてもらいたかったんだから。」
エルヴィンは優しく笑いかける。
「だからそんな顔をしないで欲しいな。
これでも私は十分幸せな気持ちなんだが。」
そう言ったエルヴィンは
優しくエマを抱き寄せた。
「……すいませんっ、」
エマはエルヴィンの胸に顔を埋める。
「謝らないでいい。
誰も君のことを責めてはいない。」
エルヴィンの優しい声は、エマの心に響く。
「涙を拭くのは、私の服でも構わないかな?」
エルヴィンがそう問いかけると、
「ありがとうございます……」
エマはそう言って泣き始めた。
嗚咽を漏らしながら泣きじゃくりながら、
自分が不安で仕方なかったことに気付く。
もし、調査中リヴァイさんに何かあったら、
酷い怪我でもしてしまっていたら、
……万が一、帰れないなんてことがあったら。
1人になると、今そんなことを考えても
どうしようもないことと分かっていても
考え込んでしまっていた。
エルヴィンさんの言う通り、
私はリヴァイさんを心配に思う気持ちを
受け止めてもらいたかっただけなのかも知れない。
自分勝手な思いを感じながらも、
今はこの体温を手放せる気がしなかった。