第30章 触れない理由
「……エルヴィンさん。」
エマはたまらず声をかける。
「最近私に触らないのは、
どういう意味があるんですか?」
エマの率直な質問に、
エルヴィンは少し笑うと
「なんだ、触ってほしかったのか?」
と、冗談めかして答える。
「……触ってほしくない訳ではないです。」
エマは少し俯いて話す。
「正直、避けられてないのに、
避けられてるというか、そんな風に思えて
あまり心中穏やかではないかも知れません。」
エルヴィンは書類を机に置く。
「そうだな。私も心中穏やかではないよ。」
「……え?」
「こんな近くに君がいても、
私から君に触ることはできない。」
エルヴィンはエマを見つめる。
「君に触れると、もっと求めたくなる。」
エルヴィンの声は穏やかだ。
「本心を言えば、君を思いきり抱きしめたいし、
なんならこの場で押し倒したい。
だがそんなこと、
君が求めていることではないだろう?」
エルヴィンの言葉に対して、
エマは返す言葉に迷い、黙りこくる。
「……それなら最初から触れない方がいい。
その方がお互いの為に良いだろう。」
エルヴィンはそう言い終わると、
また書類を手に取った。