第30章 触れない理由
「うぁ、寝てた。」
しばらくして、
エマは声を上げ、目を覚ます。
と同時に、
自分に上着がかかっていることに気付き、
隣に視線を向けた。
「エマ。お疲れさま。」
隣に座っているエルヴィンは、
メガネを掛け、
書類を持ったままエマに声をかける。
「エルヴィンさん……お帰りなさい。」
まだ少し寝ぼけているエマは、
眠気を覚ますように目を擦る。
「エルヴィンさん、メガネかけるんですね。」
見慣れないエルヴィンのメガネ姿に、
エマは少しドキッとした。
「ああ。
暗いところではかけた方が見やすいからね。」
そう言いながら、
エルヴィンは書類に目をやる。
「あ。コーヒー、入れましょうか。」
「いや、そんな気を遣わなくていい。」
「いえ、私も飲みたいので。ついで、です。」
エマはそう言って笑うと、厨房に向かう。
「ありがとう。」
エルヴィンはエマの後姿に声をかけた。
まだ少し眠気が残り、
あくびをしながらコーヒーを淹れると
エマはエルヴィンの隣へ戻る。
「どうぞ。」
エマがコーヒーを差し出すと、
「ありがとう。」
そう言って、エルヴィンは笑って受け取った。
その拍子に少しだけ手が触れ合うが
エルヴィンはその手を反射的に離すと、
また書類を見始めた。