第30章 触れない理由
エルヴィンが用意してくれた馬車に乗り、
調査兵団の基地に戻ったエマは、
静まり返った食堂で、一人コーヒーを飲む。
「こんな広い基地の中に、私一人か。」
エマはそう呟くと、
少し不安な気持ちになった。
『早くエルヴィンさん帰ってこないかな……』
ついそんなことを考えてしまい、頭を振る。
そして、机に顔を伏せてまた考え込む。
『もう頭パンクするかも。自分が分からない。』
エマは色々な考えを巡らせながら、
そのまま眠りについた。
エルヴィンが帰って来たのは、
それから数時間後だった。
辺りはかなり暗くなっている。
エルヴィンは星の出る空を見上げ、
疲れた肩を回す。
基地に入ると、
食堂の明かりが付いていることに気付いた。
「エマ?」
エルヴィンは食堂に顔を覗かすと、
机に突っ伏して寝ているエマを見つけた。
「待っていてくれたのか。」
エルヴィンは頬を緩めると、
エマの隣の席に座り、
着ていた上着をエマにかける。
そしてカバンから書類を取り出すと、
静かに目を通し始めた。