第30章 触れない理由
その様子を見ていたサラは、
「エルヴィン団長、忙しそうだね。」
と、エマに話しかける。
「そうみたいだね。」
エマは心配そうにエルヴィンの後姿を見送る。
「無理しすぎなきゃいいけど。」
「心配?」
「そりゃ、まぁ……」
サラはエマの顔をニヤニヤしながら覗き込む。
「まだ迷ってるんでしょ?」
「………迷ってるも何も、
エルヴィンさんとはもう何にもないし、
調査兵団も帰ってこないから
気持ちを確かめようもないし。」
「それに、エルヴィンさんが
自分に触れてこなくなって淋しいし?」
サラのその言葉に、
「その言い方、なんかいやらしいなぁ。」
エマはそう言って頭を掻く。
「でもほんとの事でしょ?エルヴィン団長の手が、
そろそろ恋しくなってきた頃なんじゃない?」
サラは今までのエマの話を踏まえて話し出す。
「触ってもらって安心するとか、
結構重要なことだと思うけど。」
「でも、好きな人に触られても安心するよ!」
エマはサラの言葉を遮った。
「好きな人に触られても安心するのに、
エルヴィン団長に触られても安心するの?
それってエルヴィン団長のことが
好きってことにはならないの?」
サラは不思議そうに問いかける。
「うーん………」
エマは顎元に手を当て考え込む。
しかし、
「ダメだ。分かんない。
なんなんだろうね、これ。」
そう言って頭を乱暴に掻きむしった。
「それにしても、エルヴィン団長は
何で急にエマに触らなくなったんだろう。」
「……さぁ?」
「エマに気を遣ってるってこと?
それとも焦らし?」
「どうなんだろうね。」
エマは曖昧に答えると、また少し考え込んだ。