第29章 憲兵団での仕事
昼休憩になり、厨房の裏口に出て
水を飲んでいるエマにサラが話しかける。
「ねぇ、昼、見ちゃったんだけど。」
「ん?何を?」
「エマ、エルヴィン団長と、
かなりいい感じなんじゃないの?」
サラのその言葉に
エマは水を吹き出しそうになり、
「え、エルヴィンさんは
そういうのじゃないんだってば。」
と、口元を拭きながら答える。
「そうなの?
てっきりエマの想い人は
エルヴィン団長かと思ったよ。」
サラはそう言いながら、エマの横に座った。
「……想い人かぁ。」
エマは小さくため息を吐くと、
壁にもたれかかる。
「どうしたの?」
「……なんかさ、最近自分の気持ちが
よく分からなくなってきたんだよね。」
「他に好きな人がいるけど、
エルヴィン団長も気になるって話?」
サラは涼しい顔で問いかける。
「……なんでそんな
ズバズバ言い当てるかなぁ。」
「だってエマ、
エルヴィン団長と話してる時
すごい嬉しそうだったんだもん。」
そう言いながら、
サラはエマに笑いかけた。
「その、今好きな人とは、
うまくいってないわけ?」
「うまくいってない訳じゃないけど、
今は調査で壁外だからなぁ。」
エマはため息を吐く。
「ふーん……
じゃぁ気持ちを確かめようにも、
相手がいないからどうしようもない
ってことか。」
「そうなるね……」
エマは返事をしながら首を回した。
「でもさ。エルヴィン団長は、
エマのこと好きなんでしょ?」
「は?なに、急に!」
エマは焦って声が裏返る。
「いやいや、あんな優しい表情の
エルヴィン団長、初めて見たよ!
“冷酷かつ非情な指揮官”
って言われてるくらいなのに。
好きな人の前じゃなきゃ、
あんな顔できないんじゃない?」
サラは焦るエマの肩を叩く。
「そんな人から好きになられたら、
揺らぎもするよねぇ。」
「……何も反論できないです。」
エマは膝を抱えて座り直した。