第26章 寛大すぎる心
「エルヴィンさん、あの、すみません……」
「いや、いいんだ。だが、エマが
あんなに手が早いとは思わなかったよ。」
エルヴィンは少し頬を緩めた。
「あれだけ言われて、
手が出ないエルヴィンさんの
寛大すぎる心に私はびっくりですよ。」
エマはふて腐れた表情で目を伏せる。
「ありがとう。
私の代わりに怒ってくれたんだね。」
エルヴィンはエマの頭を優しく撫でた。
「エマが危ない目に合わなくて良かった。
今度からは私に相談してから
殴りかかるようにしてくれ。」
「……殴りかかるのに、
相談なんかする心の余裕ないです。」
エマのその言葉に、エルヴィンはまた笑った。
その時、曇り空の隙間から雨粒が落ちてきた。
「エマ。少し雨宿りをしようか。」
エマとエルヴィンは
店の軒先で雨が止むのを待つ。
「……なかなか止みませんね。」
エマは曇り空を見上げた。
雨はさっきより強さを増し、
時折、遠くで稲光が見える。
「これは止みそうにないな。
取りあえず場所を変えよう。
この店もそろそろ閉店だ。」
エルヴィンはエマの肩を軽くたたくと、
別の軒先へ走った。