第26章 寛大すぎる心
「……さっき言ってたのは、
このことだったんですね。」
“心無い言葉に腹を立てる。”
まさに今の状況だと思い、
エマはもやもやした気持ちを抑えようと
再び席に着いた。
だが、
「腕はないが、
女といちゃつくのは別ってか。」
その発言を聞くなり
エマは勢いよく立ち上がり、
その言葉の主の元へ駆け寄る。
「エマ!待ちなさい!」
エルヴィンの制止を無視し、エマは
「ねぇ、文句あるんだったら、
そんなとこでボソボソ言ってないで
直接言いに来たらいいんじゃない?」
そう言って男を睨み付ける。
「ねぇちゃん、団長の女か?」
男はヘラヘラと笑いながら言った。
「団長も腕がないくせに、
真昼間からお盛んだなぁ。
いいホテルでも紹介しようか?」
男のその言葉を聞き終わる前に、
エマは思わず手を上げそうになるが、
その手をエルヴィンに掴まれ、
動きを止める。
「エマ。君が怒ることではない。」
エルヴィンはエマに耳打ちして、
優しく笑いかけた。
そして男の方に向き直る。
「お気遣いありがとう。
だがあいにく、この子は仲間の一人でね。
君たちの心配には及ばないよ。」
エルヴィンの発言とは裏腹な辛辣な表情を見て、
男は後ずさりをした。
「だが、これ以上、兵を悪く言うのは
よしてもらおうか。
私も残った左腕を
汚すようなことはしたくないからね。」
エルヴィンの重々しいその一言を受け、
男たちは静かに去って行った。