第2章 調査兵団の料理人を目指して
「このスープを作ったのは君か?」
会場内が、少しざわめいた。
いきなり現れたこの人の胸には、
ユニコーンが描かれている。
憲兵団の人か。
しかも周りの反応からして、
かなりのお偉いさんのようだ。
小声で「ナイル師団長がなぜここに……?」
と話をする人がいたので名前が分かった。
「……はい。私が作りました。」
大勢の監督官や試験を受ける人たちの視線を
一斉に受け、言葉を選ぶ暇もなく、
そう答える。
「……そうか。」
それだけ言うと、ナイル師団長は
監督官の方へ静かに向かっていった。
小声で何か話しているようだ。
『一体何だったんだろう……』
その質問に一体何の意味があったのか分からず、
戸惑っていると
ナイル師団長と話していた監督官に
声をかけられた。
「君を憲兵団の料理人として
採用することが決定した。」
いきなりだった。
思わず目を丸くする。
「え、でも、これって
調査兵団の料理人の試験、ですよね?」
私は戸惑いを隠しきれず上ずった声で問う。
「そうだが、ナイル師団長が
直々にお声をかけて下さったのだ。
まさか辞退する理由はないよな?
調査兵団の料理人より憲兵団の料理人の方が、
遥かに地位も高いのだぞ。」
監督官は、不安そうな私の顔を見て
怪訝そうな表情を見せた。
そりゃ、一般市民にとって
これほど光栄なことはない。
でも、私は調査兵団の料理人になるために、
いや。
リヴァイさんとの約束を果たすために
ここに来たのだ。
勇気を出して
自分の気持ちを伝えるしかない。
「あの、せっかくなのですが、
私は調査兵団の料理人になりたくて……」
そこまで言ったところで、
ナイル師団長の鋭い視線が私に突き刺さった。
「……ここで憲兵団の料理人の話を
断るということが一体どういうことなのか、
君にはわかっているのか?」
その言葉の意味はすぐに理解できた。
この話を断れば調査兵団の料理人になる道は
無理にでも絶たれるのだろう。
が、納得はできない。
……でも、納得するしかない。