第1章 傷跡/時透無一郎/薬師夢主/日常
霞柱と言えば有名人だ。
天才と謳われ、柱に昇格してまだ日は浅い。
それでも鬼はこちらの事情なんか聞いてくれやしない訳で、今回の任務も難易度は高く身体に堪えるものだった。
闘いで痛んだ身心は蝶屋敷で介抱してもらったり、有能なる薬師がいるこの藤の館を訪れる事も鬼殺隊士としては珍しくない。
今回も任務の折、強者な鬼と相対することになり彼は深い傷を負う。そして何とかこの館まで担ぎ込まれた訳だった。
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「……煎じる前の状態で強めに調合したから、かなり効くとは思うけど……」
目の前のベッドに横たわるのは「鬼殺隊最強称号剣士」というには小柄で幼過ぎる少年だ。
白い顔には容赦ない傷が残っているし、隊服にも血痕が生々しい。は注射器を右手に構え、擦過傷の目立つ腕にそれを容赦なく突き刺した。
呻き声はひとつもなく、時透は瞳を閉じたままだ。
刹那ほんの束の間だけ、まつ毛が揺れる程度にのみ目元をしかめるだけだった。
「……大丈夫。……脈は安定してるし意識が戻れば、あとは……」
左手の二本指では時透の細やかな手首を辿り、とくりとくりと緩やかな血液の流れを探る。劇薬とも言えるレベルの痛み止めを使ったおかげか、身体の緊張がやや緩んでくる。
「……頑張って」
無意識に、そう声をかけ目の前の少年を見た。
本当にこの子は「柱」の1人なのだろうか。
そんな疑問が湧き上がる程、儚く小さく見えてくる。
血の気が引いた顔は死人を思わせるくらいに色を失っているし、自身とそう変わらない背丈の身体は微動だに動きもしない。
それなのに、長い髪はどこまでも艶やかでベッドから床へ流れる様は、女として嫉妬を覚えるくらいに美しかった。
剣を握る指先だって華奢で少女さながらなのに、容赦にいくつも豆が出来ており、この少年がどれだけの鍛錬を重ねて今の地位まで登り詰めたのかを物語っているようだった。
「………っ」
剣士の手当ては何度もしてきた。最期を看取った事もある。
しかし過去の記憶と比較しても時透は余りに幼いだろう。
ふと、青黒い前髪の隙間から額に斜めに入る傷が目に止まった。
つうと伝いそうな血液を拭うべく、そこへそっとガーゼを掴んだ片手を伸ばした。