Fleeting promise【魔法使いの約束】
第3章 友達と呼ぶにはまだ遠い
沢山の兵士たちが慌ただしく駆け回る。派手に倒れたテーブルや椅子、所々焦げた壁や、あちらこちらに転がる装飾品。私はシャイロックに用意された椅子へ腰かけながら、それらを片付けて回る彼らを眺めていた。
時折魔法使いたちがそれを手伝いつつ、魔法使いたち同士で賑やかに会話をしている。
(魔法使いがこんなに……とても賑やか、だけど……)
昼間に行った召喚の儀式で、賢者の魔法使いとして選ばれた彼ら。役目を果たすためにここへと集まってきてくれたということはスノウとホワイトから聞いていた。
けれど彼らを見る限り、この役目に、そもそもここにいること自体を快く思っていない者がいるのが分かる。
(確か、中央の……あと向かいにいる東の魔法使い……?あの2人は見るからに帰りたがっている……でも、その気持ちも分からなくない……)
兄も突然賢者としての使命を負ってこの世界へ連れてこられた。自分の意思とは関係なく、与えられた選びようのない運命によって。望んでもいない結末へ巻き込まれることを喜ぶことなど出来る訳もなく、それならば帰りたいと望むのは当たり前だろう。
そんな不服そうな2人とうって代わり、片付けを率先して手伝っている南の魔法使いたちは、どこか意気揚々としている。
(本当に、国によって気質が違うのね……)
ふと、兄の元へ歩み寄る人物が目に留まった。
(確か、あの人がアーサー王子……)
物腰柔らかそうで、だけどどこか無垢な瞳をしており、まさしく王子というべき爽やかを兼ね備えている。
彼が兄へと膝をついて謝罪の言葉を述べた。兵士たちが後ろの方で慌てて膝をつき、それを止めるように兄までもが膝をつく。アーサー王子の様子を見ていると、彼がとても純粋で誠実な人柄だということがよく分かる。
「……残念ながら、異界から訪れる賢者様を、異界へ返す方法は、まだ見つかっておりません」
兄がアーサー王子に会いたかったという言葉を伝えると、彼は少し申し訳なさそうに眉を下げてそう答えた。
何となく、そうではないかと思い始めていたこともあって、そこまで絶望は感じなかった。もちろん帰れる保証がないことに不安は拭えない。