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Fleeting promise【魔法使いの約束】

第1章 壊れかけの世界




その日は風が強く吹いていた。見上げた空には満月がいつもより明るく光っている。

私は兄を迎えに行くために夜道を歩いていた。特に意味は無かったのだが、せっかくなので突然迎えに行って驚かせようという、私にしては珍しい思いつきをしてしまったのが発端だった。

やがて道の先に人影が見え、私は思わず駆け出した。



「お兄ちゃん!」

「え、茜!?どうしてこんなところに!?」

「ふふっ、迎えに来ちゃった。お兄ちゃんこそ、何を撮っていたの?」



兄を見つけた時、彼はスマホを空へと向けていた。おそらく何か写真を撮っていのだろうと踏んだ私はスマホの画面を覗き込んだ。そこに写っていたのは満月だった。



「結構綺麗に撮れたって思わない?」

「珍しいのね、お兄ちゃんがこういうのを気にするなんて」

「それは茜も同じだよ。迎えなんて滅多にしないのに」

「なんだか急にそんな気になっちゃって……ちょっと風が冷たいけどね」



そんなふうに他愛もない話をしながら私たちは帰路に着く。兄の撮った写真を見ながらエレベーターへと乗り込み、自宅階へのボタンを押す。



「それにしても今日は随分と猫が多い気がしたのだけど……」

「あ、それは俺も思ったよ」



今日は道すがら、猫を見かける回数が多かった。

この辺りは飼い猫野良猫を含めて結構な数がいるが、いつもの夜と違って、猫たちの行動が活発だったように思う。普段はあまり泣かない子の鳴き声も聞こえてきたし、本当に今日は珍しいことばかりだ。



「猫といえば猫ばあさんがこんなことを言っていたよ。風が強くて、猫が騒ぐ、明るい満月の夜には、なにか不思議な事が起こる……って」

「それじゃあこれから不思議なことが起きるかもしれないわね」

「そんなことあるわけ……あれ?」

「お兄ちゃん?」



ふいに兄がスマホから顔を上げたかと思えば、不思議そうな声をあげたので、私も同じ方へと視線を向ける。

そしてようやく気がついた。



(このエレベーター、こんな内装だったっけ……)

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