第3章 私にしておきなさい
出た言葉はあまりにキザだった。沈黙の後、意味を察した彼女の顔に赤みが差していくのが公園の弱い街灯の中でも分かった。
「七海さん・・それって・・」
「寒い中、想い人の恋バナに付き合った私を褒めてください」
「すみません・・私は・・」
分かり切った答えなど聞きたくない。しかし、優しい彼女を少し悩ませることくらいは許されるだろう。
「今は無理でしょうね。でも、少しでも五条さん以外を見てみませんか?その中に私も入れてくれたら光栄です」
もう遅い時間だ。早く帰さねば明日の任務に差し障る。
「帰りましょう。送りますから」
握った手からは緊張が伝わってくる。彼女の意志に反して手に触れるとはセクハラだろうか。少しだけ、せめて人通りがある所に出るまで私の我儘を許してほしい。少しだけ手に力を込める。次に彼女に触れるときは、彼女からも握り返してくれる関係になっていることを願って。
(終わり)