第3章 私にしておきなさい
「好きなんです・・五条さんのこと」
冬だからか。鳥も虫も鳴かない、人さえ歩いていない静かな空間を呪いたい。彼女の通る声が絶望へと私を突き落とす。
「知っています」
ええ、知っています。想い人の目に誰が映っているかなんて見ていればわかるんです。
「やっぱり・・七海さんは全て分かっていますね。恥ずかしい」
鼻をすすり照れ笑いをする彼女に胸が締め付けられる。五条さんはこんな彼女を見たことがないだろう。その点に関しては勝った気分だ。
「飲み会の席で五条さんの口から誰かの名前が出て褒める度に、君の表情が沈んだ。そして今は公園でずっと五条さんの名前を聞かされている私の身にもなってください」
地面に目線を移し、か細い声の謝罪が聞こえた。
「七海さん忙しいのに・・。迷惑かけてすみませんでした」
「飲み会で表情が暗くなろうが、恋愛相談を聞かされようが・・」
ミルクティーが無くなったからか、湧き上がる自分の感情を制御できない。
「・・・私は不快にはなりません。相手が君でさえなければ」
言ってしまった。彼女の表情は一気に暗くなっていく。
「すみません・・。七海さんに甘えてばかりいるから、嫌われましたね」
そういう意味ではない!1回でも口に出した以上、自分は歯止めが効かない性格のようだ。
「違います。誰かに恋い焦がれる君を見ていたくないだけです」
今度は彼女の顔にハテナマークが浮かんでいる。
「私にしておきなさい・・という事です」