第1章 第一章 消えた天才作詞家
万理のアパートを出よう。
これに限るわ。
このまま、ズルズルした関係を続けるのは良くない。
「荷造りをしよう。今夜は安いビジネスホテルに泊まって、アトリエに行こう」
こうなった以上は万理に甘えるわけには行かない。
幸いにもまだ万理は帰っていないから都合がいい。
「酷いことを沢山言っちゃったし」
あそこまで言う必要はなかった。
でも、二度と誰かに管理されるのは嫌だし。
私が関わると音晴さんや万理も迷惑がかかるし、最悪の事態を考えてしまう。
「ごめんね万理」
せめてお詫びに楽譜と詩を置いておこう。
「どんなアイドルかは解らないけど…」
私が密かに描いた詩と曲にデモテープ。
「会えて良かった」
冷たい態度を取ったけど、元気な顔を見れただけで十分だった。
それだけで心残りはない。
「緑ママにお世話になって、お金が溜まったら日本を出よう」
日本には思い出が多すぎる。
だから忘れる為にも――。
そして残りの時間をあの人を待つ時間に使おう。
私の恩師であり養父であるあの人に会うことが出来ればこの世に未練はないのだから。
「バイバイ万理」
テーブルに合鍵と手紙を残して私は去った。
「寒いな」
荷物を持ってアパートを出た私は駅に向かった。
けれど、週末だってことでどこもかしこも満室だった。
カプセルホテルもいっぱいで開いてないとなるど、やっぱり漫画喫茶か野宿だった。
「なんか疲れちゃった」
気づくと私は公園に来ていた。
「誰もない公園…」
遊具に背を預け、私はうとうとしていた。
今日一日の過労が押し寄せて来て、寝ちゃダメなのに私は眠ってしまった。
このまま眠ったらまた。
違う場所に行くのかな?
前と同じように…