第1章 第一章 消えた天才作詞家
❁❁❁ 千side ❁❁❁
仕事が終わって事務所に戻ろうとした時だった。
すごい物音がして、何の騒ぎか中に入ると。
「何これ!強盗!」
「落ち着いてモモ。強盗にしては変だよ」
僕達は中に入ると、ボロボロになっている昴と北斗に凛太郎がいた。
傍では死んだ魚のような顔をしている岡リン。
何この光景。
「二人共、お疲れ様です」
「うん…じゃなくて。何これ!」
「あー、気にしないでください。少しやり合っただけで」
相変わらずだね。
アラフォーのおじさんがこんな時間に喧嘩して事務所のタレントを放置だなんて。
「また喧嘩?どうせ凛太郎が何か言ったんでしょ?」
「社長が悪いの?」
「凛太郎が無神経な事を言って二人を怒らせるのは日常茶飯事だよ。でも、おかしいよね」
そうだ。
普段ならストッパー役に詩が止めに入るのに。
「ねぇ、彼女は何処?」
この時間なら事務作業をしている時間なのにいない。
「千君…」
「スポンサーから王様プリンのぬいぐるみを貰ったんだよ。非売品だよ」
「そうそう、詩さんの大好きな王様プリン!」
袋から取り出し嬉しそうにするモモに少し焼ける。
アイドルとして駆け出しの頃は岡りんが僕のマネージャーをして、モモのマネージャーは詩がしていた。
特に歌に関して素人だったモモにつきっきりでレッスンしてくれていたからモモの育ての親は詩だった。
でも、相方は僕だと言うのを忘れちゃ困るな。
「それで?何処にいるの?」
「あ、もしかしてドッキリ!なぁーんだビックリした」
随分手の込んだドッキリだね。
事務所を無茶苦茶にするなんて、やり過ぎな気もするけど。
「…じゃない」
「ん?北斗、何か言った?」
ソファーに座り不機嫌な声で言う北斗。
普段から不愛想だったけど、様子がおかしかった。
「アイツは、もういない。辞めた」
「えっ…何?」
「彼女は、事務所を辞めた」
何を言っているの?
言っている意味が解らない。
誰が辞めたって?
「詩音はプロデューサーを辞めた」
「これを」
渡された封筒には新曲の作詞に、今進めている企画と一緒に退職届けと書かれた文字が目に入る。
どうして?
何で!