第3章 東京都立呪術高等専門学校
体を揺すられ、葵はゆっくりと目を開けた。
ぱちぱちと何度か目を瞬かせ、葵は座席からずれていた上半身を起こした。
ガタン、ゴトン、と規則正しく揺れる車内に、葵はようやく自分が新幹線に乗っていることを思い出した。
「もう、東京?」
「あぁ! 楽しみだね!」
隣に座っていた灰原はわくわくと目を輝かせている。
少し寝癖のついてしまった髪を触り、葵は大きく伸びをした。
葵と灰原は両者とも黒い制服に身を包んでいる。今年、彼らは東京都立呪術高等専門学校に入学するのだ。
葵が呪術師を目指す学校に入学することは生まれたときから決まっていた。だが、非術師の家系である灰原が進学先に呪術高専を選んだことは予想外だった。
「結衣ちゃんは、なんて?」
「高専に行きたいって言ってたけど、絶対に来るなって釘刺しておいた」
「そっか」
七歳のときに初めて会ってから、葵と灰原は友だちになった。
冷泉家からは非難の嵐だった。非術師である灰原と呪術師の名家である冷泉家が交友関係を持つことは嫌がられていた。
父からは頬を叩かれ、母からは泣き叫ばれた。
侍女からは陰口を。
親戚からは冷えた目を向けられた。
だが、それでも葵は灰原との交友をやめなかった。
初めての友だちなのだ。
初めて、葵を葵として見てくれた友だちなのだ。
「葵? どうしたの?」
灰原の声に葵は物思いから覚めた。
新幹線は緩やかに停車する。
「……ううん。なんでもない」
葵は微笑むと、座席から立った。