第53章 恐怖を讃えるコラール【渋谷事変】
――22:51
首都高速三号 渋谷線 渋谷料金所
四方を夜蛾の【呪骸】が守る中、家入はタバコをふかしていた。
「学長~。【呪骸】も与もいるし、私一人でいいですよ」
家入の言葉に、夜蛾は「そうはいくか」と首を振る。
「俺の傀儡は出払っている。アンタの護衛にはなれない」
ムスッとした表情で与も夜蛾に続けた。
「もっと緊張感を持て。ここがバレれば、敵は真っ先にアンタを殺しに来るぞ」
「大げさだな」
「大げさなものか。【反転術式】で他人を治す。悟にもできないことだ」
【反転術式】を他者へ行使できるのは、硝子以外には星良、星也、乙骨のわずか数人だけ。
詞織も使えるが、実用レベルというにはいささか弱い。先ほど見たが、重傷の傷を塞ぐくらいまで腕を上げているものの、まだまだ数をこなす必要がある。伸び代はあるが、将来に期待、といったところか。
「呑気なもんですよね。弟子は戦場を駆け回ってるってのに、師匠のあたしはここでのんびりタバコ吸ってんだから」
「そんなことはないだろう。星良一人でどうこうできる状況じゃない。オマエと星良の連携がなきゃ、助からなかった連中も大勢いる」
この言い方はズルかったか。こう言われては、慰めるしかない。
だが、自分を皮肉ったつもりはあるが、悲観しているわけではない。自分の役割も立場も理解している。
星良は場所をあちこち移動するが、家入の待機場所は襲撃がない限り動くことはない。だからこそ、傷を負った者たちは真っ直ぐにここへ向かえる。
戦う術を持たない以上、戦場は星良に任せるしかない。自分にできるのは星良の負担をできるだけ減らし、死に向かう命を一つでも多く繋ぎとめることだ。