第6章 アニマートに色づく日常【鉄骨娘/始まり】
「これからどっか行くんですか?」
ぼんやりと意味もなく髪をいじっている詞織の隣で、伏黒は五条に尋ねた。
それを受けて、彼は「フッフッフッ」と意味深な声を立てて笑う。
「せっかく一年が四人揃ったんだし。しかも、そのうちの二人はおのぼりさんときてる。行くでしょ、東京観光!」
虎杖と釘崎がパァアッと目をキラキラさせて無邪気な笑顔を見せた。
え、何言い出すんだ、この担任。
「どこ行くの?」
「知らねぇ」
詞織の疑問に伏黒は"イヤな予感"がした。
もちろん、詞織のものとは違い、この展開から行き着く先を想像しての"イヤな予感"だ。
思わず渋面を作る伏黒の視線の先で、虎杖と釘崎が五条に戯(じゃ)れていた。
「TDL(東京ディ●ニーランド)! TDL行きたい!」
「バッカ! TDLは千葉だろ! 中華街にしよ、先生‼︎」
「中華街だって横浜だろ!」
「横浜は東京だろ!」
TDLに行きたい釘崎と、中華街に行きたい虎杖の攻防が始まる。
「横浜は神奈川県」
「詞織。そんな冷静にツッコミ入れなくていいんだよ」
だいたい、呪術高専はいつから園児を預かるようになったんだ?
どう見ても高校生とは思えない虎杖と釘崎のはしゃぎっぷりに現実逃避したくなった頃、五条が手を上げた。
「それでは、行き先を発表します」
五条の言葉に、虎杖と釘崎は膝をついて礼をとる。
「わたしも……」
「しなくていい」
二人に倣おうとする詞織を引き止める。そんな真似をされたら、逆に自分が浮いてしまうではないか。
やがて、ジャカジャカとドラム缶を叩く音すら聞こえてきそうな沈黙の末、五条が行き先を告げた。
「六本木!」
その単語に、虎杖と釘崎は、互いに胸を躍らせるようにして目を輝かせる。
なんともオシャレな響きだとでも思っているのだろう。
ちなみに、伏黒も詞織も埼玉出身だ。
都会のような賑やかさや華やかさはなく、かといって田舎というほど閑静でもない、中途半端な場所だった。