第6章 アニマートに色づく日常【鉄骨娘/始まり】
『憎い……あなたと生きているヤツらが。それを許されるヤツらが。あたしたちは許されなかったのに!』
「詩音……」
宥めるように呼びかけると、詩音が『ねぇ』と縋るような眼差しを向けてきた。
『ねぇ、詞織……あなたが愛しているのはあたしでしょ? あたしだけでしょ? そうよね? あなたにはあたしだけ……あなたをこの世で最も愛していて、あなたがこの世で最も愛しているのはこのあたし。そうでしょ?』
その言葉に、なぜか脳裏で「鈍感」と呟く影が過った。
ぶっきらぼうで、不器用で、それでいて誰よりも優しい幼なじみの姿。
――「俺だって男だ。こういうことされると、期待するに決まってんだろ」
何かを耐えるような、伏黒の瞳。あんな幼なじみを、詞織は初めて見た。
いつだって、詞織のわがままを聞いてくれた。
困ったと思ったときは、声を掛けるより早く助けてくれた。
気がつけば、いつも隣にいて……。
胸の奥で、熱い感情が込み上げてくる。
黙った詞織に何を感じたのか。詩音が眉を寄せていた。
『詞織……?』
「一番、愛してるのは――……」
詞織は夜色の瞳を詩音に向ける。
「一番愛してるのは、詩音だよ。今も昔もこれからも、それだけは"絶対"に変わらない」
自分を守るために命を断ち、世界を呪った片割れ。
たとえ幻想でも、呪いでも、こうして傍にいてくれることが詞織は嬉しかった。
手を伸ばし、詞織は双子の姉を抱きしめる。そんな詞織の行動に、詩音は満足げに紅い瞳を閉じた。
やがて、妹の腕から抜け出し、その額に口づけを落とす。
『いいわ。許してあげる――他の人間は許さない。でも……あなただけは、いつだって、なんだって許してあげるわ』
意味ありげに笑い声を上げる詩音に、詞織の意識が遠のく。
覚醒が近いのだと、ぼんやりとした頭が教えてくれた。