第47章 長き決戦のオーバーチュア【渋谷事変】
「星良さんはどこに?」
話を振られ、伊地知が「はい」と頷く。
「星良さんは現在、怪我人にすぐ対応できるよう、灰原さんと【帳】の外を巡回中です。お二人は術式の相性が良いので……あ! す、すみません」
失言に気づき、伊地知が慌てて謝った。
確かに、折神を切らしても、星良の術式があれば間に合わせで“折紙”を出すことができる。
それに、怪我人の治療のための移動も必要だが、灰原はその手段も持ち合わせている。相性が良いと言えるだろう。
実際、夏油が起こした去年の百鬼夜行でも、後方に控える家入に対し、星良は灰原と戦場を駆け回っていた。今回も同じだ。
だが、恋人を前にその発言をするのは、確かに『失言』と言わざるを得ない。
「お気になさらず。任務に私情は挟みません。羨ましくはありますが」
さすが、大人だ……自分だったら一言 物申しているかもしれない。
「あ〜ぁ、俺も姐サンに会っときたかったぜ」
「姐サンって……星良さんは猪野さんより年下ですよね?」
猪野は二十一歳で星良は二十歳。
一歳差とはいえ年下は年下だ。
「確かに星良は高専でも後輩だったけどよぉ、俺も色々 助けられたし、あんま後輩って感じしてないんだよなぁ。むしろ、七海サンの奥さんになる人だぜ? 姐サンじゃなきゃなんだよって話じゃん!」
「姉さまはあなたの姉さまじゃない。気安く呼ばないで」
ムッとする詞織の頭を、宥めるように柔らかく撫でる。
「班で動くんだ。あんま つっけんどんな態度とるな」
「……この人 次第」
「え……何? 俺 嫌われてんの?」
「気に入られてはいないようですね、猪野君」
基本、詞織もブラコンでシスコンだからな。あまり馴れ馴れしくされると嫌がる。
今ひとつ締まらない空気にため息を吐いていると、七海が伊地知を呼んだ。
「それで、五条さんは?」
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