第47章 長き決戦のオーバーチュア【渋谷事変】
「姉さまの……どこが好きなの?」
詞織の質問に察しはついていたが、やはり聞きたかったのは それか。
今年の七月――星良の二十歳の誕生日に二人は婚約した。
星良が十年以上も七海に片想いをしているのは知っていたから、素直に喜ばしいと思った。
だが、詞織は姉をとられるのが気に入らないらしく、話を聞いてムッとしていたのを覚えている。きっと、会ったら聞いてやろうと思っていたのだろう。
「長い間 あれほど熱烈にアプローチを続けられれば、心も動くというもの。魅力的な女性ならばなおさらです」
「……それだけ?」
不満そうに詞織が唇を尖らせると、七海が小さく嘆息する。
「……私が今 呪術師を続けられているのは、星良さんのおかげです。彼女の支えがなければ、とうに呪術界から退いていたでしょう」
眼鏡の奥の瞳を優しげに細めて、彼はそう言った。きっとそれは、七海に限った話ではないのだろう。
星良の精神力の強さは呪術界でも稀だ。彼女の精神はどんな状況でも揺るがない。
前に他の術師が話していたのを聞いたことがある。
彼女が二級のとき、参加した合同任務で一級相当の呪霊が出現した。しかし、星良以外の術師は怯えて動くことができなかったらしい。
そのとき、彼女はすぐに攻撃から自分を含めた術師たちを守る結界を敷き、全員を叱咤激励して奮い立たせ、連携して準一級を祓った。
その功績が認められ、星良は一級推薦を受けたのだ。