第47章 長き決戦のオーバーチュア【渋谷事変】
「おい、詞織……」
呼びかけようとして、猪野が「伏黒、詞織」と得意げに呼びかけてきた。
「【帳】……結界の効力の足し引きに使える条件っていうのはな、基本『呪力にまつわるモノ』だけなんだ」
「ざっくり言うと、人間、呪霊、呪物でしょ。知ってる」
「電波妨害とかは【帳】が下りたことによる副次効果ですよね。知ってます」
【帳】の結界術式そのものには電波の要否は組み込まれていない。
詞織と伏黒に台詞を取られ、猪野の得意げな笑みから表情が消え、脳面のようになってしまった。
「猪野くん、二人は優秀です。先輩風はほどほどに」
「どういう意味っスか、七海サン!」
猪野 琢真――七海を慕うニット帽を被った二級術師。
気さくで陽気な性格のようだが、七海との話を聞く限り、すでに準一級相当の実力を持ちながら、七海からの推薦にこだわり、今の等級に留まっていたようだ。
そしてこの度、めでたく七海からの推薦を勝ち取ることができたらしい。
「さて、一区切りついたところで、詞織さん……私に何か言いたいことでも?」
七海も詞織の視線に気づいていたのか。詞織も特に悪びれた様子もなく、大きな夜色の瞳を七海に据える。