第5章 アレグレットに加速する心【自分のために】
「ありがとうございました。お忙しいのにすみません」
ほら、と伏黒が詞織に手を差し出し、引っ張り上げた。
「むぅ……当てられなかった。火伏せの和歌しか使わせられなかった。悔しい」
あまり悔しそうには見えないのだが……声からは悔しさが滲み出ている。
「やっぱ、特級呪術師って強いんだな。五条先生とどっちが強いの?」
自称・最強を名乗る五条を思い出して尋ねると、星也は「あぁ」と顎に手を当てて考えた。
「そうだね……本気で呪術を当て合って戦ったことはないけど……たぶん、もって五秒……いや、三秒だね」
三秒?
何を言っているのか分からなくて首を傾げると、星也が続ける。
「うん、そうだな。百パーセント負ける」
「えぇ⁉ あんなに強いのに? 今、伏黒と詞織が二人がかりで戦って手も足も出ないくらい、コテンパンにしたのに?」
「オイ」
イラっとした顔で伏黒がこちらを見てくるが、気にしない。
すると、星良が「そりゃあ、そうよ」と話してくれた。
「呪術師も呪霊も、特級が一番上なの。一級の枠を少しでも超えたら特級。つまり、特級の中でも、人や呪霊によっては天と地ほどの差があるってわけ」
「僕と五条先生がいい例だ。僕の実力は、きっと五条先生の十分の一くらいじゃないかな?」
ほぉ、と虎杖は感心する。
つまりは、伏黒と詞織の強さが星也の十分の一とすると、二人の実力は五条の百分の一くらいということだろうか。
あ、伏黒の眉間のシワがさらに深まっている。
これ以上は掘り下げない方がいいだろう。