第5章 アレグレットに加速する心【自分のために】
「――【めぐり逢ひて 見しやそれとも 分かぬ間に 雲隠れにし 夜半の月かな】」
浅く呼吸を繰り返し、伏黒が鵺を呼んだ。その鵺が、フッと姿を消す。
「消えた⁉」
思わず虎杖は声を上げていた。おそらく、先ほどの詞織の歌の効果なのだろう。
伏黒が大きく腕を上げ、星也へ向けて振り下ろした。どこからか、ヒュンッと風を切る音が耳に届く。
姿が見えない相手に対応することなどできないだろう。虎杖も、伏黒と詞織の勝利を確信した。
すると――星也がおもむろに目を閉じる。
そのことに驚いたのは、虎杖だけではなかった。伏黒と詞織も驚きに目を丸くしている。
その中で、星良だけが余裕の笑みを浮かべていた。
唐突に、星也が大きく身体を動かし、何もないところへ回し蹴りを放つ。ゴッと鈍い音を立て、大きな鳥が姿を現した。
「あ……」
「鵺……」
勝負ありだった。
「星也、そろそろ時間よ」
時計を確認した星良が声を掛ける。
「ありがとう、姉さん」
駆け寄る双子の姉に礼を言って、星也は二人を見た。