第5章 アレグレットに加速する心【自分のために】
「あ、じゃあ、伏黒も代々呪術師なの?」
「うーん……恵の術式は他家のものだから詳しくは言えないけど……見て」
そう言って、星良が伏黒を指さす。
そこでは、玉犬を影に戻し、鵺を召喚していた。仮面を被った大きな鳥が、翼を広げながら伏黒の影から飛び出す。
「【十種影法術(とくさかげほうじゅつ)】っていう術式で、影絵を作って式神を呼び出す術よ。あたしが説明できるのはそれくらいかな。人の術式を他人に教えるのはマナー違反だから」
「なるほど」
戦う三人を見ながら、虎杖はわくわくしていた。
ここで授業を受けていたら、自分もあのような術が使えるようになるのだろうか。
このときの虎杖は知らない。
術式は先祖代々受け継がれ、生まれつき身体に刻まれているという言葉は、頭の中からすっかり抜け落ちていた。
つまり、一般人に呪術を使うことができないということを、虎杖は上手く理解できていなかった。
虎杖はいつの間にか、拳をギュッと握りしめ、三人の戦いを見ていた。
「伏黒―! 詞織―! 頑張れーッ‼」
声を張り上げると、二人の視線がこちらに向く。詞織がギュッと唇を引き結び、開いた。