第45章 君へ捧げるレクイエム【呪術廻戦0】
「遅かったじゃないか、悟。だが、よくここが……」
里香の攻撃で負傷した右半身をおさえ、高専敷地内の建造物の陰に身を潜めていた夏油が視線を上げた。
「あぁ、見張りか。星也君だね」
痛みに朦朧としていて気づかなかったのだろう。
星也は【白虎】の背から降り、建物の屋根に降りる。地上へ降りなかったのは、五条と夏油の最後を邪魔したくなかったからだ。
「君たちで詰むとはな。家族たちは無事かい?」
「揃いも揃って逃げおおせたよ。京都の方もオマエの指示だろ」
昔の粗野な言葉遣いは、親友を前にしたからだろうか。
五条の言葉に、夏油は「まぁね」と鼻で嗤う。
「君と違って私は優しいんだ。あの二人を、私にやられる前提で、乙骨の起爆剤として送り込んだな。星也君は万が一の保険と乙骨の盾役といったところか」
「そこは信用した。オマエのような主義の人間は、若い術師を理由もなく殺さないと。星也のこともそうだ。オマエは昔からアイツには甘い」
ツイ…と五条の空色の【六眼】がこちらを見上げ、夏油へと戻した。
「クックックッ……信用か。まだ、私にそんなものを残していたのか」
懐かしそうに目を細めると、夏油が懐から何かを取り出す。
「コレ、返しといてくれ」
ピシッと投げられたもの受け止めると、五条は「げ」と顔を顰めた。彼が投げたのは、乙骨の学生証だ。
そういえば、小学校での初任務のときに紛失したと言っていたか。