第45章 君へ捧げるレクイエム【呪術廻戦0】
「アレもオマエの仕業だったのか。呆れたヤツだ」
しばらく沈黙が降りる。その沈黙はほんの数秒だったが、星也には長く感じられた。やがて、その沈黙を五条が破る。
「……何か言い残すことはあるか?」
五条の気遣いに、夏油は小さく首を振った。
「……誰がなんと言おうと、猿ども(非術師)は嫌いだ。でも、別に高専の連中まで憎かったわけじゃない」
――ただ、この世界では……私は心の底から笑えなかった。
高専時代……日を追うごとに憔悴していく夏油の様子を思い出し、星也は顔を伏せた。
「傑。……――――……」
五条は名前を呼ぶと、彼にだけ聞こえる小さな声で何かを伝える。その言葉は、星也のところまでは聞こえなかった。
その言葉に、夏油は目を丸くし、眉を下げて笑みを浮かべる。久しぶりに見た、あの頃と同じ穏やかな笑みだ。
「最後くらい、【呪い】の言葉を吐けよ」
五条が手を掲げる。バシュッと音が鳴ったかと思うと、夏油の身体がゆっくりと地面に倒れた。
二人の結末を見届け、星也は【白虎】の背中に乗り、ようやく地上へ降りる。
「姉さんと憲紀から連絡がありました。新宿と京都、全ての呪霊を討伐できたそうです。死傷者ゼロとは言えませんが、被害は少なくてすんだかと」
「新宿は硝子と星良の【反転術式】の賜物だね。京都は君がかなり間引いたんでしょ」
「僕の力だけじゃありませんよ」
そういえば、京都校の二年に、やけに威勢のいい一級が二人いた。持ち場を離れて暴れていたが、それが逆に劣勢に立たされた術師を助け、功を奏したのかもしれない。
そんなことをぼんやりと考えながら、星也は夏油の顔についている血を拭い、五条を振り返る。