第5章 アレグレットに加速する心【自分のために】
「あたしたち神ノ原一門の相伝は【陰陽術式】。安倍 晴明って、さすがに名前くらいは聞いたことあるでしょ?」
「あぁ、平安時代のすごい陰陽師」
答えると、星良は「そうそう」と頷く。
「あたしたち神ノ原一門は、安倍 晴明の末裔。直系じゃないけどね」
星良曰く傍系の血筋で、末端の末端らしい。
ただし、代々呪力の高い子どもが生まれるらしく、高い実力を持つ呪術師を多く輩出してきたとのことだ。
「本来、術式は一つにつき一つのことしかできないわ」
たとえば、星良の【書字具現術】は書いた文字通りのことを具現化・実行する。詞織の【歌楽具現術】は歌の印象を具現化する。それ以外のことはできない。
けれど、星也の【陰陽術式】は違う。
「【陰陽術式】は、安倍 晴明が編み出した術式よ。真言、言霊、式神、祝詞とか、そういった色々な術を全部ひっくるめて『陰陽術』ってカテゴライズして一つの術式にしてある。汎用性は他の術式と比べても飛び抜けて高い。その分 扱いは難しいし、この術式を使える人間は中々生まれない」
……はずだったんだけど、という続く声は小さく、虎杖の耳には届かなかった。
ちなみに、神ノ原 星也は、半世紀ぶりに生まれた【陰陽術式】の保持者だったそうだ。
その上、術の完成度は歴代随一で、神ノ原一門初の特級呪術師。
「あたしの【書字具現術】も、詞織の【歌楽具現術】も陰陽術式の派生。【陰陽術式】が持つ様々な術の中で、あたしは“文字”、詞織は“言葉”に特化した術のみを使うことができる」
【陰陽術式】でそれぞれの術を使うことはできる。
たとえば、先ほど炎を鎮めた星也の和歌がそうだ。
しかし、詞織と星良の持つ術式は、それ自体に特化したもので、完成度は【陰陽術式】に勝るとのことだった。
星也に限って、それは当てはまらないが、と星良が苦笑いしてつけ足す。
本来ならば陰陽術式に勝る派生の術式も、星也の完成度の前では同等かそれ以下なのだそうだ。