第45章 君へ捧げるレクイエム【呪術廻戦0】
「古い馴染みとして、最後の警告だ。逃げた方がいい。君を手にかけてしまうのは忍びない」
そう言うと、彼は十二単を着た女性型の呪霊を呼び出した。
――特級仮想怨霊・化身 玉藻前(たまものまえ)。
仮想怨霊――都市伝説や怪談、妖怪などの本来 実在しないが共通認識のある存在へ向けられた負の感情が呪霊となったものだ。
より強く恐れられれた呪霊は、その分 力を増す。
玉藻前は、平安時代の末期に存在したとされる伝説上の人物で、鳥羽上皇の寵姫だ。
その正体は妖狐で、正体を見破られた玉藻前は息絶えた後、近づく人や動物の命を奪う『殺生石』という特級呪物になったとされる。
「もう やめましょう、夏油さん」
星也は深く息を吐き出し、滴る血を石畳に一つ落とした。
「【清陽は濁陰に呑まれ、天は地に堕つ】」
ブワッと星也から溢れる呪力に空気が震える。
「禁言による“縛り”! まだこんな力を……っ⁉︎」
「【天清浄、地清浄、内外清浄、六根清浄。祓い給え、清め給え。祓い給え、清め給え】」
場の空気を正の呪力で清め、星也は刀印を結んだ。
「【天切(あめきる)、地切(つちきる)、八方切(はっぽうきる)。天(あめ)に八違(やたが)い、地(つち)に十文字(とおのふみ)、秘音(ひめね)】」
――【一(ひとつ)も十々(とおとお)、ニ(ふたつ)も十々(とおとお)】
――【三(みつ)も十々(とおとお)、四(よつ)も十々(とおとお)】
――【五(いつつ)も十々(とおとお)、六(むつ)も十々(とおとお)】
「【ふっ切って放つ。さんびらり――急々如律令】」
抜き放った一閃――その魔を祓う刃が玉藻前を襲う。それをふわりと避け、九つの狐の尾が叩き落とそうと伸びてきた。