第45章 君へ捧げるレクイエム【呪術廻戦0】
「神になりたいなんて、子どもじみたこと言うなよ!」
「論点がズレてるよ、乙骨」
「離れろ、憂太!」
夏油の足元からタコのような呪霊が飛び出し、乙骨に長い足を絡ませる。乙骨がそれを斬り裂き、離れたところを狙って【騰蛇】に食わせる。
だが、拘束から逃れた一瞬の隙をつき、夏油の振り回した三節棍が乙骨の横っ面を殴りつけた。さらに頭上から振り下ろされた三節棍が乙骨を襲う。
「【騰蛇】、いけ‼︎」
駆ける【騰蛇】が乙骨を後方へと突き飛ばした。その先にいる里香が乙骨を受け止める。だが、殴られたダメージはかなり大きいはずだ。
「私が望むのは『啓蒙』ではない。『選民』だよ。数が多いというだけで強者が弱者に埋もれ、虐げられることもある。そういう猿どもの厚顔さが、吐き気を催すほど不快だと、私は言っているんだ」
「前にも言いましたが、あなたの言っている意味が分からないとは言いません。けど、それでも非術師を守るのが僕たちの役目のはずだ」
「まだ言うのか。猿どもなど、守る価値もない」
顔を醜く歪めて吐き捨てる夏油は、もはや星也の知る彼ではなかった。
穏やかに笑み、時に厳しく叱責し、優しく頭を撫でてくれた夏油 傑は、もう……どこにもいないのか。
「……そんなことありません。少なくとも、僕は知ってる。誰よりも優しい心を持つ、清らかな存在を。きっと、彼女だけじゃない」
――「星也さん、おかえりなさい」
そう津美紀が出迎えてくれると、張り詰めていた緊張が解けて、肩の力を抜くことができた。労ってくれる言葉が、行動が……終わらない戦いに摩耗した心を癒してくれた。
任務で助けた人が、「ありがとう」と笑ってくれると、やりがいを感じられた。
救えた命を前にすると、安堵から涙が止まらなかった。