第45章 君へ捧げるレクイエム【呪術廻戦0】
アーチ状の看板に吊るされた仲間の補助監督の姿を横目に見つつ、伊地知は目の前の少女二人を警戒しながら身構えていた。
「……君たち、歳は?」
「十五ぉ〜」
明るい髪色の少女が気怠げに答える。
「まだ子どもじゃないですか。今なら引き返せます。善悪の区別もついていないでしょう」
おそらく、この二人も術師。自分もかつて呪術高専で学んだ身だが、三級呪霊を祓うのがやっと。どれほどの腕かは分からないが、戦うのは得策ではないだろう。
「カッチ〜ン。美々子ぉ、アイツ ゲロムカつかねェ?」
「吊るす? 菜々子」
伊地知の言葉は二人の逆鱗に触れたようで、明るい髪色の少女はスマートフォンを、黒髪の少女は首にロープを巻いた人形を構えた。
「アンタらは知らねぇだろ。地図にも載ってねぇようなクソ田舎で、呪術師がどういう扱いを受けてるのか。善悪? そんなの勝手にやってろし。夏油さまが言えば黒も白だし、白も黒なんだよ」
――アタシたちは、あの人が見据える世界を信じてる。
「邪魔するヤツは――……」
「……吊るしてやる!」
二人が呪力を練り始める。
まずい、そう思って逃げ場を確保しようと身体を強張らせたところへ、轟音を伴って“何か”が吹き飛んできた。
「はぁっ⁉︎」
菜々子、と呼ばれていた少女が声を上げて目を丸くする。立ち昇っていた呪力の気配も消えていた。気が逸れたのだろう。