第45章 君へ捧げるレクイエム【呪術廻戦0】
欄干から屋根を伝い、乙骨が電柱を伝って外へ移動してきた。
「おかえり」
「なんで攻撃をやめた?」
返事をすることなく問うてくる乙骨に、夏油はわざとらしく肩を竦める。
「呪力による治癒には高度な【反転術式】を要する。君の意識を少しでもそちらに割かせた方が得策だろう?」
それに、【反転術式】は通常の倍の呪力を必要とし、三人分の治療となればその分 呪力を消費する。
「さぁ、続きを始めようか」
新たに呪霊を群れで呼び出し、乙骨を殺すよう命じる。
「里香、アレをやる」
乙骨が手を伸ばすと、里香がそこに拡声器を出現させた。そこには、『蛇の目』と『牙』――狗巻家の呪印が刻まれている。
迫る呪霊の群れに物怖じした様子もなく、乙骨は深く息を吸い込んだ。
「【 死 ね 】」
慌てて呪力で耳から脳にかけて保護すると同時に、パンパンパンッと派手な音を立て呪霊たちが消えていく。
「素晴らしい」
思わずゴクリと息を呑んだ。
「やっぱり難しいや。呪力が拡散して狙いが定まらない。狗巻くんはすごいなぁ……」
ボロボロと拡声器が崩れていく。おそらく、術式の反動だろう。本来なら術師本人に返ってくる反動が、術式を行使している拡声器に返ったのか。
【呪言】は狗巻家相伝の高等術式。これを呪術を学んで半年程度の少年がやってのけるとは。
「そうだ……僕の友だちはすごいんだ……それをオマエは……オマエは……ッ!」
異様なほど濃い呪力が立ち込めていく。
やはり、【折本 里香】の正体は――変幻自在・底なしの呪力の塊!
「ますます欲しいね」
「ぐちゃぐちゃにしてやる‼︎」
血走った目でこちらを睨みつける乙骨に、夏油は口角を上げた。
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