第45章 君へ捧げるレクイエム【呪術廻戦0】
――ボンッ! ガンッ! ドドド……ッ!
波のように押し寄せる呪霊を斬り祓っていく。一体一体の強さは大したことはない。おそらく、質より量でこちらの実力を測っているようだ。
「里香」
乙骨は指示し、建物のベランダに当たる場所に真希たちを下ろした。膝をついて三人の容体を確認する。三人とも酷い傷だが、真希が特に酷い。
どういうわけか、夏油は非術師を毛嫌いしている。真希は呪具を使って戦う術師だが、呪力を持たない彼女は夏油にとっては非術師であり、そのせいで容赦なく痛めつけられたのだろう。
「死なせない!」
乙骨は三人に【反転術式】を施す。
やり方を教わったわけではないが、星也や家入がやっているのを何度も見た。見よう見まねで不安はあったが、次第に真希の呼吸が安定したことに安心する。
すると、里香がピクッと反応し、真希を掴み上げた。
『……ずるい……ずるい……お前ばっかり! オ前ばっかり‼︎』
「何をしている、里香。その人は僕の恩人だ。蝶よりも花よりも丁重に扱え」
ここまでくれば嫌でも分かる。真希も、パンダも、狗巻も、自分のせいで夏油との戦いに巻き込まれたのだと。
『あ……あ……ごめんなさい! ごめんなさい‼︎』
自分でも驚くほど低い声が出ると、里香が慌てて真希を乙骨に手渡した。
『怒らないで……』
「怒ってないよ」
『嫌いにならないでぇ』
「嫌いになんてならないよ」
大きな身体を震わせながら泣く里香を優しく宥め、乙骨は真希を丁寧に寝かせる。そして、刀を握り、里香を伴って欄干に乗ると、階下にいる夏油を見下ろした。
「僕らの敵はアイツだよ」
袈裟を身に纏う男――呪詛師・夏油 傑。
『……憂太、アイツ嫌い?』
「あぁ、大嫌いだ」
『じゃあ、里香も嫌いぃぃぃ』
大切な友人たちを傷つけた。到底 看過できない。
きっぱり言い切ると、里香がニタリと笑った。
* * *