第45章 君へ捧げるレクイエム【呪術廻戦0】
教室で言われるままに待機を続けていた乙骨は、強い揺れを何度も感じた。地震だろうか。何が起きているのだろう。
気になると いても立ってもいられず、刀を持って外へ出ることにした。空は相変わらず【帳】が下りており、外は薄暗い。
そこへ、またズシンッと地面が揺れ、乙骨は揺れの中心である正門へ足を急がせた。そして……絶句する。
「真希……さん……?」
四肢を投げ出して気絶している真希に言葉を失う。傍らにはよく使用している呪具がへし折られ、戦いに敗北したのだと分かった。
誰が……?
そんなの、考えるまでもない。
「本当はね、君にも生きていてほしいんだ……乙骨。でも、全ては呪術界のためだ」
夏油 傑――彼の言葉を理解することを脳が拒否していた。
大きく空いた穴や割れた石畳などの戦闘の爪痕、倒れたパンダや狗巻の姿に、心臓がこれまでにないほど脈を打っていた。頭を殴られたかのような衝撃だ。
あまりの光景に立ち尽くす乙骨を、微かに身じろぎした狗巻が、掠れてひび割れた声で呼びかける。
「……ゆ、ぅだ……」
「狗巻くん!」
「逃、げ……ろ……」
呪力を乗せられず、呪言の強制力もない言葉。狗巻はそのままガクッと喉を仰け反らせて気を失った。
真希の、パンダの、狗巻の姿に、頭の奥で何かが焼き切れる。
「来い――【里香】‼︎」
乙骨から溢れる呪力が空気を塗り替えた。濃い呪力に当てられ、刀を包んでいた鞘が袋ごと弾け、剥き身の刃が現れる。
【記録――2017年12月24日】
特級過呪怨霊【折本 里香】――二度目の完全顕現。
「君を殺す」
「ブッ殺してやる‼︎」
怒りで震えながら、乙骨は刀を構えた。
* * *