第45章 君へ捧げるレクイエム【呪術廻戦0】
「ワンパターンだよ」
「時間稼ぎだからな」
ここへ来たのは自分だけではない。
「棘!」
塀を飛び越え、狗巻が現れる。ネックウォーマーを下げ、呪印の刻まれた口元を晒した。回避行動を取ろうとする夏油の足を掴んで引き止める。
「油断したな」
「――【堕 ち ろ】‼」
瞬間――夏油の顔が歪み、ズズンッと重たい音が響き、高専を揺らした。地面には巨大な穴が開き、下から強い風が吹き上げてくる。
「棘! 大丈夫か⁉」
膝をつき、ボタボタと血を吐く狗巻の声は掠れ、顔も青ざめていた。
「い……ぐら……」
「あぁ。まずは真希」
真希に駆け寄り、容体を確認する。
「真希、大丈夫か……真希」
「高菜……」
随分と派手にやられているが、微かに呼吸はしている。どうやら、トドメを刺される前に駆けつけられたようだ。死んでいなければ、家入や星良がなんとかしてくれるだろう。
そこへ、強い呪力の気配を感じて振り返る。ズルズル…と薄気味悪い音と共に、開いた穴から髑髏を引き連れ、布でぐるぐる巻きにされた呪霊が夏油と共に現れた。
そこからは早かった。
呪霊の攻撃に為す術もなく、パンダは狗巻とともに吹き飛ばされ、貫かれ、打ち伏せられていた。圧倒的な戦力差。
立ち上がろうにも意識が朦朧としていて、指先一つすらまともに動かすことはできなかった。
そこへ、夏油の高笑いが耳に届く。
「素晴らしい! 素晴らしいよ‼︎ 私は今! 猛烈に感動している‼︎ 乙骨を助けに馳せ参じたのだろう⁉︎ 呪術師が呪術師を! 自己を犠牲にしてまで慈しみ! 敬う‼︎ 私の望む世界が! 今! 目の前にある‼︎」
喜びの声を上げ、感動に震える夏油を前に、パンダの意識は完全に途絶えた。
* * *