第44章 決戦のアッチェーソ【呪術廻戦0】
「姉さま、顔色が……」
「大丈夫よ。あたしはもう、目の前で命を取りこぼしたくないの。あたしの弱さで死ぬ人を一人でも減らしたい。それに、硝子さんにばかり負担はかけられないもの」
何かを思い出しているのか。いつもの溌剌とした表情に陰がさす。
「詩音なら……【反転術式】が使える……さっき、初めて呼んだけど……『誰も攻撃しないで』って言ったら聞いてくれた。また呼んだら助け……」
「詞織」
固い声音で星良が詞織の言葉を遮った。
「そんな気軽に詩音を頼っちゃダメ。あなたは本来 死刑対象なの。それを、星也が詩音の力を抑えることで経過観察まで引き下げた。それを簡単に呼んじゃったら、上層部から目をつけられることになる」
それに、と星良は真剣な表情を微笑に変える。
「詩音だって、あなた以外を助けたいなんて思わないでしょ。やりたくないことをさせちゃ、可哀想だわ」
すると、詞織の瞳が紅く濁り出した。
『偉そうに。あたしたちを見殺しにしようとしておいて……あなたがあたしたちに何をしてくれたって言うのかしら』
「……そうね。あたしは星也と違って、あなたに何もしてないわ。いいことも、悪いことも。でも……あなたを助けたいと思ってたのはホント。大事な妹だって思ってるのもホント。たとえ“呪霊”だったとしても、ここにいてくれて嬉しいって思ってるのもホントよ」
星良の言葉に、詩音がグッと唇を噛み締めているのが見える。やがて低く舌打ちが耳に届いた。