第44章 決戦のアッチェーソ【呪術廻戦0】
『なんなのよ……あなたも、神ノ原 星也も……なんであたしにそんなこと……っ!』
フッと詞織から禍々しい呪力の気配が消えた。
「詞織……」
肩に触れると、詞織の夜色の瞳に光が戻る。
「あ……ごめんなさい、姉さま」
「気にしないで。心配してくれてありがと。あたしは大丈夫だから、二人は呪霊をお願い」
やがて、特級呪霊が雄叫びを上げると、黒い靄が立ち込め、一回り小さな分身体をいくつも生み出す。近づいてきた分身体を、冥冥は愛用の大きな斧で迎え撃った。
「おやおや……本体と同じで頑強なタイプか。中々 骨が折れそうだ」
冥冥が口紅を引いた唇を艶やかに持ち上げる。
「なるほど。では、本体の相手は私が」
「だな。七海の【十劃呪法】なら硬さは関係ねぇし」
七海が手に巻いていたネクタイをキツく結び直す隣で、ことさらに日下部が何度も頷いた。おそらく、分身体より本体の方が強いから相手をしたくなかったのだろう。
「頼んだよ、皆!」
灰原が猿、鳥、犬の三体の鬼を呼び出し、伏黒も手で翼を形作り、【鵺】を呼び出す。
「わたしの術式で、戦闘範囲内に身体能力を向上させる結界を張る。少しはマシになるはず。歌っている間しか効果がないから、わたしは無防備になるけど……」
「なら、俺は詞織と星良さんの護衛を。皆さんはそちらに集中してください」
襲いくる分身を、伏黒は【鵺】の電撃で牽制した。
「いいね、伏黒君、詞織ちゃん! よーしっ! ここは高専OBとして、後輩にカッコいいトコ見せるぞ〜‼︎」
「ったく、俺より若いヤツらを残して逃げるわけにもいかねぇし、いっちょやるか」
「撃破数のインセンティブはクリア済み。満額ボーナスを目指してもう少し働こうかな」
詞織の力強い歌が呪力を広げ、身体能力を向上させるフィールドを形成した。
身体が軽い。蓄積していた疲労もいくらか抜けている気がする。
「では、皆さん。気張っていきましょう」
七海の言葉に、全員が武器を構えて頷いた。