第44章 決戦のアッチェーソ【呪術廻戦0】
『この程度に尻尾を巻いて逃げようだなんて……無様ね、伏黒 恵』
詩音の言葉に悔しさから奥歯を噛み締めていると、彼女は自分を抱きしめ、身体を震わせた。
『ふふふ……最高! 最高よ! 最高の気分だわ! あはっ! あはははは‼︎ 詞織が初めてあたしを頼ってくれた! 力を奮えと! “呪霊”になったあたしを頼ってくれた! あはっ! あはははは‼︎ 嬉しい! 嬉しくて震えが止まらないわ‼︎』
そこへ、さらに一級並みの呪霊が三体現れ、伏黒たちの目の前に四体の一級呪霊が並んだ。
「おい! 笑ってる場合じゃないぞ‼︎」
伏黒は【鵺】を呼び出し、迎撃の構えをとるが、詩音は焦る伏黒を嘲笑うかのように『うるさいわね』と口角を上げる。
『怖いなら下がってなさい』
そう言って、詩音は一歩 前に出た。
『あたしの使う【陰陽術式】は、数多ある術式の中でも異端と言えるわ。陰陽術という大枠の中に、真言や祝詞、言霊、呪歌、式神──陰陽術に関わるあらゆる術を詰め込んで一つの術式として安倍 晴明が完成させた』
これ……術式の開示か?
初めて聞く【陰陽術式】の話に伏黒は眉を寄せた。
だが、これはあくまで“さわり”。全貌ではない。しかし、詩音は辛いじゃあ 語る気はないらしい。
『【謹請現示(きんせいげんじ)──羅刹・火天】』
詩音の呼びかけに、カシャンと金属の擦れる音が耳に届いた。詩音の傍らに、黄金と赤銅、二体の甲冑が傅く。
『あたしの式神──十二天将よ。行きなさい』
二体の式神は沈黙と行動を以て了承し、ただちに命令を遂行した。二体の背中から翼が伸び、高く宙を駆ける。
ガシャンガシャンッと激しく鎧を揺らしながら、黄金の槍と灼熱の大剣が呪霊を切り裂いていく。
縦横無尽に駆ける二体の式神が、瞬く間に三体の呪霊を祓った。